ある母娘の家具物語

ある母娘の家具物語

張り替えることで
想いをつなげる

スプラウトを起業した当時、いまでも忘れられない張替えのご依頼がありました。ホームページのお問い合わせからご相談がはじまった、小さな鏡台の椅子の張替え。

その鏡台の椅子は、嫁入り道具にとご両親からもらったものだそう。鏡台の下におさまるとても小さな椅子は、長年使い込まれて、ボロボロの状態でした。

ずいぶん長く使われてきた椅子だとは感じましたが、ご依頼時には特に思い入れのあるものだというお話はお聞きしていませんでした。

いつものようにしっかりと張替えの仕事をさせていただこうと、わたしたちは丁寧に張替え作業をして仕上げ、納品の日を待ちました。

そして、納品の日、真新しい生地できれいに生まれ変わった小さな椅子をお届けすると、その椅子を見た娘さんが、その場で泣き出してしまったのです。

張替えた家具が新品のようになって喜ぶお客様は数多くいらっしゃいますが、泣き出すという予想外の反応に、わたしたちもとまどってしまいました。

新品で買った当時のようになった椅子を目の前にして、ご自身の中でいろいろと想い出があふれてきたのでしょうか。泣いた理由をその場で深くは、お聞きすることはありませんでした。

もしかしたら、その椅子を見ると想い出す家族にとって大きな出来事があったのかもしれません。その小さな椅子は、家族にとって「想い出をつなげるもの」であったのでしょう。

その時、わたしたちの張替えの仕事の真髄は、こうした「心の満足」にあるのだと強く感じました。張替えることで想いをつなげる、スプラウトの仕事の原点です。

この経験から、張替えのご相談をいただく時には、いつも「なぜ直したいのか」ということを聞くようにしています。お客さまの想いを共有しながら、わたしたちも直したいから。

張替えは、お金をいただいて仕事を引き受けるその前に、「たいせつな想い出」を引き受けることでもあるのです。

お金のやりとりだけでは感じることができない、心の満足感。時代が変わっても社会に必要とされる、本当の価値を追求していきたいと思っています。

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